有限会社テクニカル・サウンドとは?
有限会社テクニカル・サウンドは、大阪・泉南を拠点に防音室の設計・施工を手がける会社です。代表の中辻康孝さんが平成3年(1991年)に防音事業として立ち上げ、現在は経理を含めて5名ながら、北海道から全国までを対応エリアとしています。
最大の特徴は、「経験値」ではなく自社で蓄積した材料データに基づいて防音を"設計"すること。ヤマハの防音室「アビテックス」の開発段階から関わり、大学・研究機関や船舶、医療・製薬の現場まで、一般の防音業者では手が届かない領域の仕事を担ってきました。

「防音」という分類が、建築業界にはない
御社はどんな事業をされているのですか。改めて教えてください。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝うちは建築業界の中でもかなりの隙間産業なんです。実は建築業の中に「防音工事」という種類がない。だから分類上はどうしても"内装業"に入ってしまう。マンションやビルの壁を作ったり塗ったり仕上げたりする部類と一緒にされてしまうんですね。それくらいニッチな世界です。でも、だからこそ正しく理解されていないことも多い。「音を止めれば防音室だ」と思っている人が、特に楽器をやる人には多いんです。

経験値ではなく、データで設計する
一般の防音業者と、御社の違いはどこにあるのでしょう。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝ホームページで「防音工事します」とうたう業者さんの多くは、経験値なんです。「この石膏ボードを張って、防振ゴムを使えば、だいたいこれくらい止まるだろう」と。うちは反対に、材料のデータを全部取り込んでいます。この材料とこの材料を掛け合わせたらどれだけ音が止まるか。相性が良すぎると逆に音が止まらないので、あえて相性の違う材料を入れて、止まらない部分を処理して、性能まで設計してお客様に提供する。全く別のアプローチなんです。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝このデータは15年かけて取りました。遮音なら石膏ボード・鉄・ガラスといった材料を一つひとつ測定して、「メーカーが出しているデータ」と「実際に設置したときのデータ」にどれだけ誤差があるかまで全部実証したんです。データで設計するから、設計誤差も施工誤差も少なくなる。このデータは、うちと当時協力してくれた3人しか持っていません。

「音を止める」の先へ——室内音響まで設計する
「音を止めれば防音室」ではない、とはどういうことですか。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝楽器をやる人にとって、音を止めるのは当たり前。大事なのは、その部屋の中でちゃんと楽器が演奏できるかどうかなんです。ピアノ、バイオリン、サックス、若い子ならバンドのドラムやギター。その音がどこまでクリアに耳に入ってくるか——"室内音響"という空間まで設計してあげないと意味がない。一般の業者さんは設計ができないので、吸音パネルで響きを抑えるくらいが限界。そこが決定的に違うところです。

船・大学・研究機関——ニッチが届く現場
具体的には、どんな現場の防音を手がけてこられたのですか。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝コロナ禍のころからは医療や研究関係が増えました。阪大、京大、神戸の医科大、東京なら東大、慶応、国士舘、東京科学大(旧・東京工業大)といった大学に、実験用の防音室や防音箱を納めています。きっかけになったのは船の防音室でした。船の中に防音室を入れて、船員さんの生活環境を改善する部屋です。船は24時間、パチンコ屋の中にいるようなもので、85デシベルくらいがずっと出ている。音で神経をやられる可能性もある。船の大きさやエンジンの大きさで振動周波数が違うので、それを測定して、その船に合った防振をつくる。設計ができるからこそ、そういう提案や開発ができるんです。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝ヤマハさんとは30年前から取引しています。アビテックスという防音室の、普通の組み立てもやりますが、僕の場合は本社の開発段階から入っている。「こういうときはこうした方がいい」「材料はこうしましょう」と、開発そのものに関わってきました。

職人からの出発——「キーボードを押せなくなるまで」
最初から防音の会社だったのですか。中辻さんご自身の歩みも教えてください。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝いえ、最初はヤマハの防音室の組み立てから入ったんです。もともと職人でしたから。家の事情で大学に行けず、高校を出て働いて職人になった。本当は車の整備士になりたくて、工業高校から日産に入ったこともあるんですが、資格を取る前に「この手の企業は自分には向かない」と辞めてしまって。防音も最初は組むだけでしたが、「このままでは一生職人で終わるな」と思って勉強したんです。防音を覚えてデータ化すれば、年を取ってもパソコンがあれば食べていける——パソコンのキーボードが押せなくなるまでは働けるかな、と。職人仕事は体力に限界がありますからね。
これまで事業をされてきて、「これは応えた」という経験はありますか。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝それがね、「応えた」という経験はないんですよ。今も仕事が面白いなと思ってやっている。一部屋一部屋、お客様の好みで設計して、納得してもらって、高いお金を払ってもらう。だから「これだけのお金を払っても値打ちがある」という部屋を作っているつもりです。

拡大しない、という選び方
主要取引先は大企業も多い。会社としては、どこまで大きくしたいですか。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝拡大は厳しいし、正直するつもりもないんです。防音はニッチで、それくらいのニーズしかない世界ですから。5人で十分回る。むしろ最近は、大きな会社さんが「防音に手を出すと危ない」と分かってきて、うちに声がかかる。ホームページで見つけた安い業者さんに頼んで「こんな防音室じゃなかった」「近隣の苦情が収まらない」となったお客様のクレームを、うちが後から改善することも多い。裁判になりかけたものを、説明と提案で収めることもあります。設計からそこまでできるということなんですね。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝「安ければいい」というお客様は、そういう業者さんでいいと思っています。ちゃんとした防音室が欲しいというお客様に、ちゃんとした防音室を提供する。その分、設計費もかかるし値段も高い。音を止めるだけでなく、中の響きまで全部調整するので。大手企業さんと取引させてもらう以上、その名前に泥を塗らない、ちゃんとした防音室を提供していく。それが最近の自分のスタンスです。

学生へ——「しんどいけど、楽しい」と思える仕事を
情報も選択肢も多すぎる時代に、進路で迷う学生へアドバイスをお願いします。
有限会社テクニカル・サウンド 代表取締役:中辻 康孝昔から言っている言葉が一番かな。仕事は楽しくできれば一番なんです。どんな仕事をやっても、しんどい・苦しい・きついは絶対にある。楽な仕事なんてない。ただ、「しんどいけど楽しい」、完成したときの成果で「嬉しい」と思える仕事をしていれば、自分にとって一番有意義に生活して働けている。趣味が仕事になるのが一番ベストですが、それは本当に一握り。だから、自分が楽しいと思える仕事ができれば、一生続けられると思うんです。僕も防音室の組み立てから始まって、設計して、新しいものを開発して、それがお客様に喜ばれるものになっていく。だから仕事が楽しいんですよ。

正直に言うと、取材前は「防音=音を止めること」くらいの認識しかありませんでした。でも中辻社長のお話を聞いて、その先に"室内音響を設計する"という世界があること、そしてそれを15年かけたデータの蓄積が支えていることに、ただただ驚かされました。メーカーのデータと実測値の誤差まで測り切り、「うちと3人しか持っていない」というデータで設計する——その徹底ぶりは、ニッチだからこそ誰にも代わりのきかない強さになっていました。
もう一つ心に残ったのは、「表舞台に出るのは大嫌い。密かにコツコツやる方が好き」という言葉です。メディアで有名になれそうなのに、そこを望まない。ただ目の前のお客様に、値打ちのある一部屋を届け続ける。「しんどいけど楽しいと思える仕事をしていれば一生できる」という言葉は、将来に迷う僕たち学生にとって、派手さの外側にある働き方の指針そのものでした。貴重なお話を、本当にありがとうございました。




