株式会社鈴木靴下とは?
株式会社鈴木靴下は、昭和三十三年に子供靴下の製造で創業した、奈良県三宅町の靴下メーカーです。現社長の父が創業し、その後スポーツソックスの分野へと事業を広げてきました。
とくにサッカーストッキングの分野では、国内生産にこだわり、一足からのオーダーに二〜三週間で応える体制を築いています。J1のチームのストッキングも自社工場で手がけ、これまでに製造した数は数百万足にのぼります。
さらに近年は、世界初となる「米ぬか繊維」を用いた靴下の開発に取り組んでいます。約20年にわたる構想と、手作りからの地道な検証を経て生まれたこの素材は、肌の水分量を高める機能を科学的に裏づけ、繊維業界でも例のない成果を上げています。

事業と歴史について
まずは御社がどのような事業をされているのか教えてください。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫私どもは昭和三十三年に、私の父が子供靴下で創業しました。その後、私が家内と結婚してから、家内がスポーツメーカーに勤めていた縁で、スポーツソックスに携わることになりました。
とくにサッカーストッキングでは、Jリーグ発足前から手がけており、当時はどこまで伸びていくのかと思うほど好調でした。陸上競技のマラソン選手や、百メートルの選手のものも作らせていただきました。
現在はプーマさん、アシックスさんをはじめ数社と取り組んでおり、今年はJ1・二十チームのうち五チームを自社工場で作らせてもらっています。
海外生産が主流のなかで、国内生産で頑張れている理由は何でしょうか。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫チームのオーダーを一足から、二週間・三週間対応で作っているところが強みです。少ない日でも一日に百足ほど、多い時には一日四千足という日もありました。
そして基本的に納期遅れは一度もしていないというのが、私どもの自慢できるところです。万が一、色の間違いがあっても、すぐに作り直して現場へ直送します。これは海外にはできないサービスだと思います。こうした対応で得意先に支持していただいているのが現状です。

米ぬか繊維の開発
売り上げのもう一つの柱である米ぬか繊維は、どのように生まれたのでしょうか。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫私は今でも兼業農家で、二千数百坪ほどを耕作しています。大学の頃、家族のなかで私が精米する役割で、その時に「米ぬかを捨てるのはもったいない」と感じたのが発想の原点です。昔、米ぬか袋で学校の廊下を拭くと綺麗になった記憶があり、そういう靴下ができたら足がすべすべになるのではないかと考えました。
25歳の時に糸の商社さんへ相談しましたが、なかなか関心を持ってもらえませんでした。それでも夢だけはずっと持ち続け、45歳の時に鍋に靴下を入れて湯煎で炊いてみたのが、本格的な始まりです。
そこからどのように製品化まで進んだのでしょうか。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫まず米ぬかを勉強しようと、和歌山県で米と米ぬかを研究されている谷口先生を訪ねました。先生の第一声は「面白い」でした。ただ、米ぬかは直接靴下にはできず、成分を抽出して糸に入れる方法しかないと教わりました。
抽出液づくりから手作りの靴下、洗濯、アンケートの作成・配布まで、すべて一人でやりました。先生からは「この開発は必ず一人でやること」と言われました。新しいことをしようとすると否定的な意見の方が圧倒的に多く、前に進まないからです。
その後、紡績会社に糸への練り込みをお願いし、無償で協力してもらえました。そして三年ほどかけて、初めてハイソックスの黒ができました。
販売を始めた当初は、どのようなご苦労がありましたか。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫営業経験が全くなく、掛け率もアポイントという言葉も知らないまま、カバンに製品を詰めて東京へ行きました。渋谷の駅を降りただけで緊張して汗びっしょりになったのを今でも覚えています。搬入口から入り直すよう言われたり、断られたりの連続でした。
初めて売れたのは、関西に帰ってからの東急ハンズ三宮店です。正月の催事で売り場に立ち、一足が売れた時の気持ちは、千足・一万足が売れるのと同じくらい、いえ、それ以上に嬉しかったです。
科学的な裏づけ、エビデンスについてもお聞かせください。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫最終的にエビデンスがすべて揃ったのが、この四月でした。肌が求める機能であれば、国内の最高スペックであろうと思います。
角層水分量の試験では、被験者十五名全員の水分量が上がりました。通気性を遮断せずに水分を保持することは業界でも難しいとされていましたが、米ぬか繊維で実現できました。着用をやめた後も高い水分量を維持しています。同じ条件で米ぬか成分の有無だけを変えて比較した、確かな結果です。

若い人に伝えたいこと
社長のチャレンジ精神に圧倒されました。学生に向けて、大切にしてほしい考え方はありますか。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫私が伝えたいのは、夢や目標より前に、まず物事に関心を持つということです。
たとえばコーヒーカップを「飲み物の器」としか思わない人は、何回使ってもコーヒーカップのままです。しかし関心のある人は、冷めにくくできないか、取っ手を増やせないか、飲み口を変えられないかと、どんどん見えてきます。
自分の好きなことなら、寝ていても携帯で調べてしまうものです。関心のあることが見つかれば、そこを掘り下げていける。自分のやりたいことが決まったら、もうゴーでいいと思います。
うまくいかない時は、どうすればよいのでしょうか。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫自分の能力なんてたかが知れているので、うまくいかなければどこへ行けば教えてもらえるか、その道筋だけを決めればいいと思います。
ただし、学ぶ姿勢は非常に大事です。私が教わった先生方は「三分話せばこの人と話していいかわかる」と言われました。先生が長年かけて蓄えたノウハウを教わるのですから、当然のことです。
そして、教わったことは必ず報告すること。私は今も、米ぬかの先生に開発の進展を逐一お伝えしています。先生は「全部報告してくれるのは鈴木さんだけ」と言ってくださいました。営業で東京から深夜に帰っても、その日のうちにお礼のメールを送ることを癖にしていました。相手が翌朝パソコンを開いた時に届いている、その小さなこだわりを大事にしています。
興味を持てることが多すぎて、逆に決めきれない学生も多いと思います。動き出すためのアドバイスをいただけますか。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫物事に関心を持って実行し、うまくいかなければ教わる。その次に必要なのが推進力です。私は「これは誰もやっていない」と思うと無性に力が出てきます。日々やることが世界のトップを走っているのだと思えると、やる気が出るのです。
これは私だけの話ではありません。たとえば自分が住むアパートの一角の問題点を知っているのは、世界に80億人いても自分だけです。そのことに関しては、あなたが世界の第一人者なのです。物事を推し進めるうえで、この考え方が大切だと思います。

会社が大切にしていること
最後に、会社としていちばん大切にされていることを教えてください。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫私は難しい経営理念は苦手なのですが、一番大事にしているのは「思いやりに勝る原料がない」という言葉です。
会社ですから利益も大事ですが、人と人が仲良くなることに勝るものはありません。車でも相手を待ってあげればうまくいくところを、自分が優位に立とうとするから揉めるのです。相手を絶えず思いやる気持ちがあれば、揉めることはありません。
そして生涯の目標は「家族に信頼、家族に笑顔」です。お金があってもなくても、家族が笑って過ごせて、互いに信頼できる。ゴミ出し一つでも、思いやりでできることはたくさんあります。私が伝えたいのは、物事に関心を持つこと、そして人と人が仲良くすること。この二つに勝るものはないと思っています。
社長ご自身は、これからをどのように考えていらっしゃいますか。
株式会社鈴木靴下 代表取締役:鈴木 和夫私は今、コンピューターやAIに挑戦することをこれからの目標にしています。決算書の数字だけでは表せない、目に見えない財産があるからです。試験の結果やメディアでの紹介は、数字には出ません。最後は数字ではないところで、私が笑ったという形に持っていけたらと思っています。
もうすぐ六十八になりますが、今までは助走で、これからが挑戦の期間だと考えています。この世で精一杯働いて、最後は両親のところへ「やりきった」と報告に行こう。それを自分の頭の設計に置いています。





